ジャーナリストたちへ、スピルバーグが熱いエール。映画「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」


新聞業界物ということで、頭の切り替えと気分転換を兼ねて映画館にダッシュしたのです。ところが……。新聞業界を描いた映画の金字塔はやはり、ウオーターゲート事件を追うワシントン・ポストの記者たちを描いた「大統領の陰謀」でしょう。当時のニクソン政権が民主党本部を盗聴していたというスキャンダルを追いかけ、ニクソン大統領を辞任に追い込んでいく過程を描いていました。それを超えるか、と期待していたのです。それが……。

この「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」が描いているのは、ウオーターゲート事件に先立つ、国防総省のベトナム戦争に関する報告書(=ペンタゴンペーパーズ)のスクープを巡る、「ワシントン・ポスト」とニクソン政権の対立です。国家機密を暴露するスクープですから、報道すれば政府に訴えられる可能性があり、訴訟の行方次第では社主や編集幹部の投獄、新聞社の倒産といったことも予想される中、それを乗り越えて報道した人たちの物語です。しかし、映画からはその緊張感、切迫した感じがあまり伝わって来ませんでした。

そもそもこの映画、「フェイク・ニュース=偽のニュース」というセリフを連発し、既存の報道機関に対する憎悪を剥き出しにするトランプ大統領への当てこすりから製作されたところがあるからです。この映画、ハリウッドの大作にしては驚くべきスピードで製作されています。スピルバーグ側が映画化の権利を獲得したのが2016年の10月。この時、スピルバーグは「レディ・プレイヤー1」の撮影に入っていましたが、そこに割り込む形で、こちらの撮影が17年5月30日から始まるのです。しかも、11月6日にクランクアップという速さ。撮影は実質5か月でした。早撮りで有名なスピルバーグの作品の中でも、最も短期間で完成した作品なのです。トム・ハンクス、メリル・ストリープという反トランプを広言している民主党シンパの二人を起用した作品を、一刻も早く世に出したかったのですね。

もちろん、そんな裏の理由があるからといって、映画作り自体がちゃちなわけではなく、新聞社の雰囲気や時代の空気感もよく出ています。ただちょっと、社会派ドラマとしては毒にに欠けるのです。なぜか……。それは権力に屈しないという決断を下した「ワシントン・ポスト」の女性社主キャサリン・グラハムの個人的な葛藤に光を当て過ぎているからでしょう。それ故、社会派ドラマとしての色彩が薄まってしまうのです。まあ、この映画を通じてスピルバーグは、「勇気を持って権力に屈しなかった先達がいたんだ、君たちも頑張れ!」というエールを、現役のジャーナリストたちに送りたかったのでしょう。その目的は達成されています。



[ 田中の仕事 2018 ]
 
 月刊音楽祭
  → https://m-festival.biz/
 街角ジャーナリスト・田中良幸のブログ “talk more”
  → https://tanakayoshiyuki.com
 FBCラジオ「サントラ大作戦」
  → http://www2.fbc.jp/radio/st/
 バー・ステーション
  → http://bar-station.com
 若泉敬顕彰会
  → http://memorial-wakaizumi.com
 ベル・カルチャーサロン「エンジョイ・オペラ」
  → http://ipws.jp/culture/bell/?eid=290

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする